論文調査

PEGにとって代わる高分子の出現!活性酸素除去ステルスポリマー【 Poly (thioglycidyl glycerol) (PTGG)】

ポリエチレングリコール(PEG)は今日では日常のあらゆるところで利用されているが、同時に安全性に対する懸念が高まっています。このような状況で2022年にPEGにとって代わる可能性のある高分子が開発されました。

"A Reactive Oxygen Species-Scavenging ‘Stealth’ Polymer, Poly(thioglycidyl glycerol), Outperforms Poly(ethylene glycol) in Protein Conjugates and Nanocarriers and Enhances Protein Stability to Environmental and Biological Stressors"

Richard d’Arcy, Farah El Mohtadi, Nora Francini, Carlisle R. DeJulius, Hyunmoon Back, Arianna Gennari, Mike Geven, Maria Lopez-Cavestany, Zulfiye Yesim Turhan, Fang Yu, Jong Bong Lee, Michael R. King, Leonid Kagan, Craig L. Duvall, and Nicola Tirelli.

J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 21304−21317.

DOI:10.1021/jacs.2c09232

今回は、この論文を紹介します!

背景

タンパク質ベース治療薬の現状

タンパク質ベースの医薬品(インスリンリラグルチド(日本名:ビクトーザ)、アダリムマブ(日本名:ヒュミラ))は、物理化学的安定性と免疫原性、薬物動態が不十分であり、単独での使用では優れた効能が見込まれていません。

これらの欠点を克服するための手法として、ポリエチレングリコール(PEG)をタンパク質ベースの治療薬と結合することで血中半減期と生体内分布を高めることが一般的です。例えば、PEG化アサパルギナーゼはPEG化していないものと比較して、半減期が4.4日増加します[1]

PEGの問題点 (免疫原性、細胞の空砲化)

しかし、PEG化したタンパク質ベースの治療薬の普及を阻害しているのが、PEGに対する安全性の懸念です。

PEGにはHypersensitivity Reactions(HSR)やAccelerated blood clearance(ABC)現象などの免疫原性を引き起こすことがこれまでの研究で判明しています。例えば、PEG化アサパルギナーゼのPEG免疫原性の発生率は、約25%にものぼっているのが現状です[2]

現時点では、PEGの免疫原性の原因として現段階では補体活性化だと考えられており、HSRは抗PEG IgMのオプソニン化、ABC効果は、抗PEG IgGオプソニン化による補体の活性化だとされています[3]

こうした問題により、Pegnivacogin(Revolixys)の臨床評価の停止[4]、Peginesatide(Omontys)とPegloticase(Krystexxa)の市場撤退[5]につながり、洗浄剤や食品、Covid-19ワクチンなど日常のあちこちにPEGが使用されていることから、PEG抗体は人口の0.2%から44~72%に増加し続けているのです[6-7]

また、PEGが生体内で分解しにくく、長期間残留するため、様々な臓器で細胞が空胞化してしまう問題があります[8]

したがって、PEG化治療薬の将来に暗雲が立ち込めているのが現状です。

PEGの代替高分子

前述した理由により、生分解性と免疫原性のない高分子の開発が求められています。Poly(2-methyl-2-oxazoline) (PMOX)、Poly(dimethylacrylamide)(PDMA)、Poly(hydroxypropyl methacrylamide)(PHPMA)、Poly(vinylpyrrolidone) (PVP)などがPEGの代替品として開発されましたが、いずれも補体や免疫原性を活性化の懸念や血中半減期の短さなどの問題が依然としてあります。

そのような状況下で血漿循環時間が長くABC効果を示さず、抗酸化作用や抗炎症作用を示すポリスルホキシドに焦点が当たっています。この高分子は、炎症が激しく、活性酸素が多い環境で機能するプロテイナーゼ阻害剤であるα2-マクログロブリンが、表面に露出したメチオニンが犠牲基質として働き、活性に重要なトリプトファンを酸化から保護する機構を模倣しています。

論文の内容

本論文では、①親水性のメチオニン模倣型高分子Poly(thioglycidyl glycerol)(PTGG)を合成し、②生体適合性、③活性酸素消去能を評価して、タンパク質にグラフト化した④PTGG化タンパク質(スキーム1)の薬物動態について検討しています。

スキーム1. PTGG(左)化とPEG(右)化の能力比較

PTGGの合成

PTGGは図1に示す経路により合成され、NMR, IRで合成の確認を、GPCで分子量を確認しました。

図1 PTGGの合成スキーム

生体適合性

PTGGは、強力な活性酸素除去剤であり、グリセロール側鎖は、PEGを上回るステルス性を有し、(t1/2βが1.5-2倍長い[9-10])、ABC効果を示さない。PTGGとPEGの細胞毒性は、非貪食性細胞モデル(ヒト新生児皮膚線維芽細胞;HDFn)と貪食性細胞モデル(マウスマクロファージ細胞;RAW 246.7)においてほぼ同じ程度であり、どちらも5 mg/mLまでは細胞毒性を示さなかった(図2A)。

図2A PTGGの細胞毒性

PTGGとPEGの細胞取り込み能は、RAW 246.7において非常によく似た挙動を示しました(図2B)。

細胞内に取り込まれた高分子量はカチオン性デキストラン(陽性対照)よりもかなり少なく、両高分子で一定であったことから、高分子の取り込みが、主にマクロピノサイトーシスに基づく非特異的な取り込みであるため、ステルスポリマーとしての可能性が高いと著者らは推測している。

さらに、PTGGの補体活性化能は、ザイモサン(陽性対照)やPEGよりも低い(図2C)。

図2 (B) 細胞の取り込み能評価 (C) 補体活性化能評価

③活性酸素消去能

LPSで活性化したRAWは活性酸素を大量に産生するが、PEGは活性酸素レベルに影響を与えなかったのに対して、PTGGは過酸化水素と次亜塩素酸を著しく減少させた。また、活性酸素の消去と並行して、PTGGはTNF-αレベルも用量依存的に顕著に減少させた。

図3 PTGGとPEGの(A) 抗酸化能 (B) TNF-α産生量 評価

以上の結果からPTGGは、PEGと同等以上のステルス性を有し、強力な活性酸素除去剤となりうる可能性が示唆された。

次に、実際にタンパク質とPTGGの複合体が、どのような能力を有しているのかを評価している。

④タンパク質との複合体の薬物動態

リゾチーム(Lysozyme)とPTGGの複合体(PTGG/Lys)は、PEGの複合体(mPEG/Lys)と比べてプラトーの蛍光強度の減少と速度定数の減少が少なく、PTGGの中でも小さい分子量のPTGG30では蛍光量と速度定数の減少はごくわずかでした(図4A)。

凍結乾燥によるリゾチームの変性もmPEG/Lysと比較してPTGG/Lysではあまり見られませんでした(図4B)。

また、リゾチーム、mPEG/Lys、PTGG/Lysに対する抗リゾチーム抗体の認識能は、どちらの複合体もモノクローナル抗体による認識をほぼ完全に無効にすることができ、ポリクローナル抗体による認識を大幅に減少させました(図4C)。

図4 (A) 酵素活性 (B)凍結乾燥による酵素活性変化 (C) 抗体認識

LysozymeおよびPTGG/Lys, mPEG/Lysに対する活性酸素種の効果を調べたところ、遊離リゾチームはヒドロキシラジカル(・OH)、次亜塩素酸イオン(ClO)に大きく影響され、活性を大幅に低下させることが判明しました(図 5B)。

mPEG/Lysでも同様の低下が見られるため、PEG 鎖が活性部位を酸化剤から保護していないことを示しています。一方で、PTGG/Lysでは活性が低下していないため、PTGGは複合体化したタンパク質をROSから保護できることが示されました。

図5B 活性酸素種によるプラートの蛍光強度と反応速度

マウスにおける薬物動態(in vivo)

最後に、筆者らはLysozymeよりも免疫原性の高いオボアルブミン(OVA)とコンジュゲートした複合体をマウスに投与して、薬物動態を確認しています。

OVA, mPEG/OVA, PTGG/OVAの注射用量(ID)は、繰り返し投与により減少しました。PEG/OVAは、長期循環(β相排泄)をかなり延長しましたが、明らかなABC効果を示したことが分かります。

一方で、PTGG/OVA(図6Bの赤いシンボル)は、1回目の投与後、PEG/OVAよりもほぼ50%長い循環を示し、ABC効果を示しませんでした。

また、PEG/OVAとPTGG/OVAは免疫原性に違いを有しました。特に、PEG/OVAの場合では、PEG化の有無にかかわらず抗OVA IgGおよびIgMの力価は、区別がつきませんでした。

一方で、PTGGは抗OVA IgG応答を有意に減少させ、おそらくIgM産生にも何らかの影響を及ぼしました。

また投与回数とともに、PEG/OVA と比較して、PTGG/OVAは、IgM または IgG 抗 PTGG 抗体の産生を誘発しませんでした。したがって、PTGG/OVAがより長期にわたって循環しているのは、ポリマーの直接的な適応的免疫原性応答がないことと、内包物に対する免疫保護がより効率的であることの組み合わせからきているのかもしれないと著者らは推測しています。

図6 (B)マウスの薬物動態 図7 OVA, PEG/OVA, PTGG/OVA の免疫原性は、OVA (上) またはポリマー (下) に対する IgM (A) および IgG (B) の産生能

最後にラットでも同様の傾向が得られ、PTGGの利点が種特異的ではないこと、PTGG化したリポソームではABC効果が見られないことを確認した。以上の結果からPTGGはPEGに代わる一般的なプラットフォームになると期待されます。

参考文献

[1] Heo, Y.-A.; Syed, Y. Y.; Keam, S. J. Pegaspargase: A Review in Acute Lymphoblastic Leukaemia. Drugs 2019, 79, 767−777.
[2] Armstrong, J. K.; Hempel, G.; Koling, S.; Chan, L. S.; Fisher, T.; Meiselman, H. J.; Garratty, G. Antibody against poly(ethylene glycol) adversely affects PEG-asparaginase therapy in acute lymphoblastic leukemia patients. Cancer 2007, 110, 103−111.
[3] Kozma, G. T.; Mészáros, T.; Vashegyi, I.; Fülöp, T.; Ö rfi, E.; Dézsi, L.; Rosivall, L.; Bavli, Y.; Urbanics, R.; Mollnes, T. E.; Barenholz, Y.; Szebeni, J. Pse do-anaphylaxis to Polyethylene Glycol (PEG)-Coated Liposomes: Roles of Anti-PEG IgM and Complement Activation in a Porcine Model of Human Infusion Reactions. ACS Nano 2019, 13, 9315−9324.
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